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5 だってこんなに、



奇しくもそれが自覚の切欠となったのだから、何とも厄介且つ奇怪なものだ。
冷静になって考えて、今までの自分を悔いても。
その後悔がどこから湧き上がって来るものなのかを捉えた時、納得せざるを得なかった。

信じられない……いや寧ろ、信じたくはない。
ただ、そうだと考えるのが一番妥当で、だからこその執着だったのだと考えた時、すとんと胸に納まった感情は、跡部に戸惑いを起こさせるよりも先に 納得させた。そして次の瞬間、やはり戸惑わせた。

その翌日から、跡部は越前の元へ通うのをぴたりと止めた。
少し前までのごく普通の毎日が帰って来た。
越前リョーマによる総合英語の授業も、その授業で任命されたプリント係の仕事も。跡部が執拗な行動さえ取らなければ、ごく一般的な学生生活の流れの中にある日常に違いなかった。
そこで気づいたのだ。自分が動かなければ、元から何も無かったのだと。
その事実は跡部を少なからず落胆させた。
授業の時、その顔をなるべく見ないで済む様に教科書を睨み付けている事も。
留守を狙って英語科準備室にプリントを届けに行く事も。
そんな自分の行動を滑稽だと思いながらも、ふとした時に廊下ですれ違って、視線が絡んでしまった時に見せるこの鼓動の高鳴りは、気のせいだとは到底言えないと分かっていたのだ。
それなのにそれは、自分だけ。完全なる空回り。
寂しいだとか悲しいだとか、そういった女々しい感情には無縁だと思っていた自分に、こんな想いが去来するだなんて。
予想外も甚だしくて、苛立って仕方が無いのに。
ただ廊下ですれ違っただけ。ただそれだけで、その苛立ちが霧散される。
それがどういう事なのか、分からないほど愚かじゃない。

どうしたって解せないのだけれど。
どうやらこの胸に去来する想いは―――……。





それから暫くした日だった。
相変わらず鬱々とした天気が続き、朝から大粒の雨が止む事なく降り続いている。
朝練を含め、全ての練習が自主練習となったその日。
しかし大会を控えたレギュラー達は当たり前の様に集まり、雨天練習用の室内コートで一通りの汗を流していた。
練習後、立ち昇る熱気に苛立たしさを隠そうともしない面々が、挙ってシャワーを奪い合い、どやどやと入って来るロッカールーム。
正レギュラー専用、たった八人と言えど、肌から湯気を立てている体格の良い男ばかりとなると、むさ苦しさからは逃れられない。
一足早くにシャワーを浴び、ソファーに座って事務作業をしていた跡部は、それらを横目で睨んで溜息。
冷房と除湿により適温を保っていたはずのロッカールームが、あっと言う間に湿気に支配される。

「お、跡部早くね?つーか、最近やたらサボってんじゃん部長」

下着と制服のスラックスのみを身に着けて、冷房の風が当たる場所へといち早く避難する向日の言葉に、跡部は書類から視線を上げる。

「俺様は自宅に帰ってから存分に練習出来るからな。学校ではお前らに時間と場所を提供してやってんだよ」
「ちぇっ!クソクソ金持ちめっ」
「言ってろ」
「こう雨が続いたら、コンディションも狂うしなぁ。跡部みたいに出来たら、その方が賢明なんやろうけど」

会話に加わるのは相方の忍足。
この二人が揃うと何かと厄介だ……と、会話もそこそこに、跡部がミーティングルームに移動しようとした時だった。
勘が良いと言うか。慣れと言うか。
跡部が動くその前に、向日が“厄介”を持ち出した。

「そう言えば跡部、越前センセーまだ折れねーの?」

越前。
その名前に、一瞬だけ反応が遅れる。
そして、その瞬間を見逃さないのがもう一人の男。

「跡部が連れて来てくれるんやったら、俺もコーチ頼みたいなぁ」

跡部の眉がぴくりと動く。
再び書類に戻されていた視線が、一点で止まってしまっている。
それを交わした視線で示しあって、意地の悪い笑みを浮かべる忍足と向日。

「俺も俺も!だって元プロじゃん?」
「コーチって柄やなさそうやけどな」
「ははは!確かに!授業も授業になってねーし!」
「せやけど、まぁ、プレー見せて貰うだけでも学べるもんは多いんとちゃう?どうなん跡部」

経過は、と。
内情を知らないとは言え、ニヤニヤと笑いながら投げ掛けられる言葉に、跡部の苛立ちは募るばかりで。

「……勝手な事言ってんじゃねーぞテメェら」

人の気も知らないで、と。
自然と低くなる声に、おー怖っ!と肩を竦めて見せた二人だったが、そこに加わったまた別の人間によって、この会話は急展開を迎える。

「そーいや、その越前先生、アメリカ帰るんだってな」

―――え?

跡部の思考が止まる。

「え、マジで?」
「いつなんそれ。ってか、どこ情報なん?」

発信源、宍戸に向かって忍足と向日が問う。

「クラスの女子が、職員室で聞いただとか何とか騒いでたぜ?いつかは知らねぇけど」
「マジで。あーでも、女子の噂話なんか信じられんの?」
「まぁ、火の無いところに煙は立たへんって言うしなぁ」
「ああ。案外マジなのかもな」

どーなの跡部。
向日が振り返り、忍足と宍戸の視線も注がれた先で。
跡部はただ呆然と、目を見開いたまま硬直していた。

「……跡部?」

は、と表情を変えるも、眉間に寄った皺は消えない。

「なんだ跡部、知らなかったのかよ?俺てっきり、跡部は、」

―――その後、何だかんだと投げ掛けられた言葉に、どう返したかは覚えていない。
気付いたら、校門を走り出ていた。
大粒の雨の中、ラケットバックを背負い、手には既に帰宅済みだった越前リョーマの住むマンションの住所が記された紙。
『課題について、どうしても尋ねたい事がある。携帯に電話をしても繋がらないから、住所を教えて欲しい』。
飛び込んだ職員室で一番最初に捕まえた教諭に、どう考えても無理のある頼みを快く聞き入れて貰えたのは、普段の行いからか、跡部の気迫に圧されたからなのか。
しかし跡部にはそんな事を考えている余裕など無かった。メモを引っ掴んで、一礼の後に脱兎の如く飛び出していく姿を教諭達はどう思っただろう。
ただ、跡部の脳内を支配しているのは、ただ一つの事実だけだった。

越前がアメリカに帰る。
―――会えなくなる。





「……雨に濡れるの、そんなに好きなワケ?」

ドアを開いた越前の、開口一番の台詞はそれだった。
何の変哲も無いマンションの号数だけを確認して、エレベーターを待たずに階段で五階まで。
インターフォンを鳴らし、暫くの後に答えた声に、何故だかほっとした。

越前は、当たり前だが、驚いた表情をしていた。
そしてその次に、呆れた。シャツの色が変わるほどに雨に打たれた跡部に、掛けられる台詞なんて限られている。
しかし跡部には、そんな事に構っていられる余裕など無かった。
膝に手をつきたくなる程に上がった息を、整える事すら出来ないまま。開かれたドアに体を押し入れた。

「ちょ、な……っ」

狭い玄関。
背後ではドアの閉まる音。
靴の裏がザリ、と鳴る。
止め処無く垂れる雫がコンクリートを汚し。
きつく抱きしめた越前のシャツをも濡らした。

「お前が好きだ」

吐き出す様に紡いだ言葉は、それでいて掠れて。
ドクン、と大きく鳴るのは跡部の心臓。口にして漸く全身に染み渡る想いは、どうやら自覚以上に大きかった。

「跡部……」
「好きだ。好きなんだ…っ」

ただそれしか、言えなかった。
なんて子ども染みた告白だろう。
けれどそれが、たったそれだけの言葉が。今の跡部の全てだった。

換算すれば十数秒。そんなに長い時間ではなかっただろう。
けれど今、初めて大きく自覚した想いの渦中で、濡れたシャツ越しに伝わるその体温すら息の詰るほどに愛しい。
こんな気持ちは初めてだった。
形振り構う余裕すらない事も。後先を一切考慮出来ない事も。
そして今、抱き締めた越前の顔を見るのがこれほどまでに怖いと思う事も。

越前の手が、ただ頑なに力を込める事しか出来ない跡部の腕に触れた。
小さく撫でるその手は、それこそ子どもに触れる大人の手の様に柔らかく優しい。

「……とりあえず、これ解いて」

叫びにも似た告白に続いた言葉は、どこまでも静かで冷静だった。
まるで呪文に掛かった様にするりと力が抜け落ちる。
越前は体を引き、跡部の顔を伺う様に見る。
戸惑っている様にも見えるし、普段と何ら変わらない様にも見える。
琥珀の虹彩は、薄暗い玄関の間接照明の中では漆黒に見えた。
それが何故だか怖くて、跡部は視線を逸らしてしまう。
唇を噛み締める。眉根が寄る。

それを見て、越前が笑った。

「なに、泣きそうな顔してんの」

弾かれた様に視線を上げて、その笑顔を見た時。
胸が締め付けられる様に苦しくて、同時に湧き上がるのは間違いなく高揚で。
たったそれだけの事で、指の先にまで電流が走った様に痺れる。

間違いなく跡部は、越前に恋をしていた。

「……とりあえず、このままじゃ風邪引くから。シャワー浴びて着替えろ。貸すから」
「…いや、俺は」
「俺の気が済まないから。ほら早く」
「違う。俺はお前の、」

答えが聞きたい。
そう続けようとした言葉は、越前の視線によって簡単に押し止められてしまう。

「…話は、その後でしよう。茶化したりしないから」

着替えは後で持って行く。
そう言って、廊下を入ってすぐのバスルームを示しながら、越前はリビングへと姿を消した。





熱い湯で体を温めた後、脱衣場に置かれていたジャージを身に纏った。
有名スポーツメーカーのもので、ふと、揃えた資料の中に居た越前がよく着ていたものと同じだと気づく。
メーカーにとって、選手は歩く広告塔だ。スポンサードされていたのだろう、彼はいつもここのメーカーのテニスウエアを着ていた。
そんな所から、越前が嘗て本当にプロのプレーヤーだったのだと今更ながらに実感して。
同時に、これを部屋着として降ろしてしまっている越前が、すでに一線から退いているのだという事をも、改めて実感する。
早過ぎる引退。消した消息。
彼はこれを着る時、一体どんな思いで居たのだろう。
そこまで考えて、再び湧き上る胸の痛みに頭を掻く。
重症だ。不慣れな想いに翻弄されて、憔悴し切っている。

自分は結論を出した。この痛みがどこから来るものなのかも分かっている。
何も考えず、衝動のままにこの想いを告げさえもした。
ならば、もう。
出来る事はただ一つ。
越前の答えを聞く事だけだ。





さほど広くは無いリビングルームは、必要最低限の家具のみで観葉植物やインテリアの類がまるで皆無だった。
まるで簡素。それこそ、明日引っ越すと言ってもそのまま移動が可能であるかの様に。
外では雨脚が更に強まったのだろうか。窓を打つ雨音がざあざあと耳に付く。
それほどまでに静かな部屋のソファに、越前は座っていた。
リビングに続くドアを開けた跡部を一瞥すると、いつもと何ら変わらない抑揚の無い声で、「コーヒー飲む?」と聞いて来る。
頷くと、備え付けの小さなキッチンで適当に入れられたインスタントコーヒーが、ガラステーブルに置かれた。

「お前が飲むって言ったんだから、インスタントだって文句言うなよ。これしか無いし」
「……言わねぇよ」

越前の隣、空いたスペース。
二人掛けのソファのそこに腰を下ろし、湯気を立てているコーヒーに手を伸ばす。
どこにでも売っているインスタント。馴染みの無い薄いコーヒー。
けれど不味いとは思えない。
―――越前が、自分のために入れてくれたものだから?
そう考えて、流石にそれはどうか、と思うのだけれど、今この場で正常な判断は難しい。
正直、混乱している。見た目よりずっと。
越前があまりに冷静だから、先ほどの言葉では……簡潔過ぎるあの言葉では、伝え切れなかったのか、と。

跡部はカップを置き、越前に体ごと向き直った。
それに気付いて、越前も視線を寄越す。跡部に渡した物とは形も色も違うマグカップを、両手で包んだままで。

「さっきのは、冗談じゃない。ずっと思ってた事だ。多分…お前と打ち合ったあの日から」
「……多分、て。しかもあれ、俺の初出勤日じゃん」
「あぁ、そうだな。お前に初めて会った日だ」

あの、言い様の無いシンパシーを感じた、あの日。
きっともう、恋に落ちていた。

「……凄く当たり前の事言うけど、俺、男なんだよね」
「知ってる」
「お前より10コ年上だし」
「知ってる」
「そもそも、一応教師だし」
「知ってる。だから何だ」
「……だから何、ってお前」

そんな事は、とっくの昔に知っている。
けれどそれを障壁に思わない、思えないほどに、気持ちが加速度を増して行く。
こうしている内にもどんどん膨らんで、目の前にいる、この自分と身丈も大して変わらない様な年上の男が、愛しくて恋しくて。

じっと跡部の目を見ていた越前が、ふと笑った。
困った様な苦笑だった。

「俺の、何がそんなに、…好きな訳」
「……正直、自分でもよく分からねぇ」
「何ソレ」

越前が再び笑う。
可笑しそうに目を細める。

「分からないから、今日まで先延ばしにして来た。けれど、ここ数日お前とまともに喋らなかっただけで……正直、どうして良いか分からないほど、苛立った。そんな自分にも苛立った」
「……だからここの所、来なかった訳」
「お前がテニスを辞めた事情を聞いて、その上でもまだ“試合をしろ”なんて言える訳ねぇ。そして、それが…俺がお前の所へ行く唯一の理由だった……はずだった」
「まぁ、そうだね」
「でも、今日気付いた。そんな事……理由や訳なんて、どうでも良い」

越前の腕に、そっと手を伸ばす。
指先だけで触れたそこは温かくて、それ以上の温かさが胸に湧き上がる。

「お前が、好きだ。それだけが事実で、俺の真実だ。だから、それだけで良い」

穏やかな波間にたゆたう様な、ゆっくりとした心地の良い気持ち。
はたまた、先ほどの様に走り出さずに居られない様な激情。
そのどちらものベクトルが、ただ只管越前に向いている。

これが恋でなければ、一体何が恋なのだろう。

黙って聞いていた越前が、ただの一度も視線を逸らさないから、跡部も負けじとその目を見続けた。
越前はどんな想いで今、自分を見ているのだろうか。
その表情からは一切読み取れない。人の心を、視線を、視るという事にかけては得意であると自負していた自分なのに。

次の瞬間、越前の唇が開いた。

「お前の気持ちは、分かった」

その言葉と響きから、次に出て来る言葉が、跡部が良しとしない物であるという事の予想がついて、眉間が寄る。
だがしかし、予想と反して。越前は、跡部の手をその手で握りこんだ。

「……分かったけど。お前がこの後どうしたいのかが分からない」

―――後。

「お前はどうしたいの?俺と付き合いたい?キスしたい?それともセックスしたいの?」

飛び出した単語に、ただでさえ冷静とは言えない状態だった跡部の思考が着いて行かない。

「生徒だから、って所は別に引っ掛からない。俺も真面目な教師じゃないから。性別も、あんまり気にしない。男と付き合った事もあるし」

恐らくぽかんとした表情をしてしまったのだろう。越前が笑っている。

「それに俺は、お前の事は嫌いじゃない。だから、お前がそうしたいのなら、してあげても良い」

指の間に指が絡む。
自分の物と変わらないくらいにごつごつした、手の皮の厚い、テニスプレーヤーの手だ。
細身で長い指を持っていても、それは変わらない。

「だけど俺はね。お前と同じ量の好きは、あげられない」

それでも良い?と。

思えば、上手く誤魔化された様な答え方だった。
それでもその時の跡部には、正常な判断は難しかった。
越前の長い睫が一つ静かに瞬いて、その琥珀の中に自分を見た時。
その唇に口付けたいという衝動が、止められなかったのだ。

それは初めて、跡部の気持ちを具体的な形にしたものだった。

そして触れ合わせた唇は、直前まで飲んでいたコーヒーに多めに入れられた砂糖。甘苦い味。
一瞬の後に離して、恐らく閉じては居なかったのだろう瞳と再び視線が交差する。

越前が笑う。

「こんなので足りる?」

馬鹿にされている様な気がした。
ムキになって、片膝をソファに乗り上げて覆い被さる様に再び口付けた。
しかし先ほどより深く口付ける事になったのは、越前が唇を薄く開いて吸い付いて来たからで。
まだ半乾きの後頭部に手を回され、引き寄せられる。
閉じたままの唇を舐められて、それがどういう意図なのかを知る前に思わず開いたそこに、舌が滑り込んで来る。
そして次の瞬間には、強い腕でソファに引き倒されていた。

「っ……!!」
「キスは初めてじゃなくても、こういうのは初めて?経験はあっても、お前、主導権取られるの嫌いっぽいしね」

続いた言葉に対する反論は、乗り上げて来た体に封じられる。

「どっちでも良いけど。まー俺も、主導権は握りたいタイプなんだよね」

そう囁いた唇は、弧を描いたまま跡部のものに重なる。
再び絡みつく舌に本能のまま絡み返せば、越前がより一層笑ったのが分かった。
その余裕が癪に障るが、そんな事よりも気にしなければならない事がある。
歯列をなぞる舌先。時折離して唇を舐め、噛み。そして、

「ん……はっ、」

漏れ出る鼻にかかった吐息が壮絶に色っぽくて、分かってやっているのだろうけれど、それにしたって煽り上手にもほどがある。
そしてそれを分かった上で、単純に反応してしまうのは……惚れた弱みなのだろうか。

下半身に集まり始めた熱が、ぴったりと体を添わせている越前に分からないはずも無かった。
ちゅ、と音を立てて離れた唇。息を大きく乱しているのは自分の方だった。
越前は自らの唇を舐めながら笑って、膝を足の間に挟みこんで来る。
跡部は焦って、越前の肩を押す。

「ちょ、待っ」
「何で。今更怖くなった?」
「違う!この体制は、可笑しい……!」
「は?」
「気のせいかもしれねぇが、お前まさか、俺を、」

予想だにしなかった事態が、起ころうとしている予感。
乗り上げられた体を押しながら、切実に訴えるのはただ一つ。

「……何。お前、俺を抱きたいの?」

越前は驚いた表情をしていた。だが驚いたのは自分も一緒だ。
そう言えば、自分は男だが越前も男で。当たり前だが、女を相手にした時、通常なら“抱く”という表現は男である自分達が使うもの。
跡部は、当然自分が、と思っていたし、どうやら越前にとってもそうだった様で。

暫しの沈黙。
破ったのは越前だった。

「何だ、そっか。それならもっと早く言えばいいのに」
「早く……っつったって、そんな時間無かっただろ…」
「そう?」

越前は笑って体を起こす。
つられて跡部もそうすれば、ぎゅっと抱きつかれた後に首筋を辿って耳まで辿り着いた唇が囁いた。

「お前の好きにさせてやるよ」

あぁ、どうしようか。
何もかもが自制出来そうにない。

跡部は、目の前が白黒する様な気分になりながら、目の前に晒された首筋に食いついた。





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